【前回の記事を読む】祖母が猫を拾ってきた。「昔の自分を思いだして、放っておけなかったのよ」そしてゆっくりと語りだす。

第三章 別れと出会い

二〇二三年

「真っ赤だった空は、灰色の靄がかかったようになっていて、体を起こしたら、自分がどこにいるのか分からないほど焼け野原だった。弟を背負った母の姿もなくて、履いてた草履もなくなってたから裸足のまま母と弟を捜して歩き続けた。

でもね、歩いても歩いても、あたり一面焼け野原で、家の場所も、自分がどこにいるのかも分からなくなった。そのうち足の感覚がなくなって、その場にしゃがみ込んでいたの。そしたら通りすがりのおじさんたちが、上野駅に行ってみようって話をしていて、それを聞いて、もしかしたら母と弟もいるかもしれないと思って」

ふくちゃんは、湯呑みの中のお茶を眺めながら語り続ける。

「上野駅を隅から隅まで捜して歩いたけど、見つからなかった。でも、ここにいれば、いつか母が探しに来てくれるんじゃないかと思って、上野駅の地下道に住み着いたの」

「地下道?」

僕は驚いて目を見開いた。

「驚いたでしょ? 今は綺麗だけど、当時は家をなくした人たちが住み着いてたから、トイレも入れなくて、そこでするから排泄物の臭いやら残飯の臭いやらで、最初は気持ち悪かったけど、そのうち慣れたわ」

「子供が地下道で暮らすなんて……」

「今じゃ考えられないわよね。でも当時は空襲で、親も家も全て失って、天涯孤独になる子供たちが絶えなかったの。浮浪児って呼ばれたわ」

「浮浪児?」

「そう、子供の浮浪者だから、浮浪児」

ふくちゃんは、泣きだしそうになりながらも笑みを作り、テーブルに付いた傷を指でなぞった。

「警察が保護するとか、大人たちに頼ることはできなかったの?」

僕は遣る瀬ない思いで、ふくちゃんの指を見つめる。