窓や床やトイレなども、念入りに掃除をしました。知り合いの大工さんに頼んで、リビングとダイニングの間に、キッチンが見えないようにと、アコーディオンカーテンで仕切りも取り付けました。

これで、お互いのプライバシーを守れて、気兼ねなく出入りできます。

影山さんが持ってきた「飛鳥ピアノ教室」のベニヤ板の看板を、門扉(もんぴ)に取り付けて、部屋の壁掛けのボードにもポスターを貼りました。

それを見ていると、まるで自分が教室の先生になったような気がして、わくわくしてきたものです。万一、私が留守の場合は、家の鍵の置き場所まで決めて、忘れていることはないくらい準備万端整えました。

年が明けると、いよいよピアノ教室がオープンして、小さい生徒さんの出入りする姿が見かけられるようになりました。

「先生こんにちは」という子どもの元気な声や、〝バイエル〟〝ブルグミュラー〟などの曲をたどたどしく弾く音が聞こえてくると、なぜか懐かしくなり、気持ちも若返った感じになりました。

そんなある日、めずらしく雪が降って真っ白に積もりました。エアコンより石油ストーブのほうが暖かく過ごせるだろうと思い、灯油を買いに行こうと玄関を開けました。

丁度そのとき、家の前に宅配便のトラックが止まり、段ボール箱が三個も届きました。心当たりがないと不審に思って宛名を見ると、教室の影山さん宛だったので、そのままリビングに運び入れておきました。

彼女の留守中に荷物が届くことは知らなかったので、すぐにケイタイにメールを送りました。

「お荷物が届きましたので、教室の中に入れておきます。今日は大雪で寒いですけど、お休みでしょうか。おからだお大事にね」