【前回の記事を読む】「お母さんだよ!お母さんを見つけたんだ」起き抜けの僕にそう言って、父が連れて行ったのは隣町の小学校。もしかして、お母さんって今、小学生?

第二回 再会

二〇一三年

父は真っ直ぐ少女の後を付いていく。

僕も慌てて、その後を追った。

賑やかな商店街を抜け、平静な住宅街に入ると、「今日のお空も元気だな♪ 太陽さんも笑っているよ♪ ふっふっふ~」と少女の鼻歌が聴こえてくる。胸がじんわり熱くなり、懐かしさがこみ上げてきた。

母がいつも歌っていた自作の鼻歌だった。

父と僕だけが知っている母の作った歌。今、目の前を歩いている少女は間違いなく母だった。

父を追い抜き、足早に彼女との距離を縮めた時、鼻歌がぴたりとやんだ。少女が立ち止まり、ゆっくりと振り向く。

父は慌てて電信柱の陰に隠れたが、僕の体はピクリとも動かなかった。少女は仁王立ちし、ドングリ眼で僕を見据える。

「あなたも、あのおじさんの仲間?」

電信柱から半分顔が出ている父を指さした。

「あのおじさん、昨日もわたしの後を付いてきたけど、もしかしてストーカー? それとも変態? それ以上近づいたら、叫んでこれ鳴らすよ」

彼女は印籠を掲げるように、携帯用の防犯ブザーを見せた。

「いや、あの、決して僕たちは怪しい者ではなくて、確認したかったというか、用事があったというか……」

小学生とは思えない貫禄に、僕はたじろぐ。少女を前に、しどろもどろである。

「電信柱の後ろに隠れるなんて、すんごく怪しいと思うけど」

彼女は怖がる様子もなく、冷静だ。

「確認って、何の確認?」

鋭い視線が父に向けられた。電信柱の後ろから、観念した父が出てくる。

「僕たちはストーカーでも変態でもない。ただ人を捜していて、その人に君があまりに似ていたから付いてきてしまったんだ。怖がらせて、ごめんな」

父は用意してきた台詞を読みあげるように、言い訳をした。