聖シュテファン教会に飾られているのは彼が制作した最後のステンドグラスだそうだよ。彼はユダヤ系だったのでこの作品に『ユダヤとドイツの和解』や『国際間の協調』といった願いを込めながら制作を進めたんだって。ステンドグラスをよく見ると、細かいグラデーションによってパターンが描かれていた。

本当に素晴らしかったよね。イスラエル・エルサレムのユダヤ教教会やイギリスのチェスター大聖堂にもあるから、紫衣、行こうね一緒に」

紫衣はなぜ聖シュテファン教会で泣き崩れたのか話し出した。

「父のことが大好きだったの。父は晩年ステンドグラス作家で、それは独創的なステンドグラスを作っていて、私はそれをいつもうっとりと眺めていたわ。でも父がいつも言うの。

思うような青いガラスがない、と。どんなガラスを取り寄せてもこれじゃない、と。だから私は父が欲しい青のガラスを作りたくて調色師になったの。それでも父の好きな色は作れなくて。そしてお父さんは逝っちゃったし。

でもね、聖シュテファン教会に入ったときに、あ、お父さん、ここにあった、これがお父さんの欲しかった色だったのね、そう思ったんだ。色だけでなくて暖かみや愛があるから、この光になったんだ、そう思ったの」

真亜は黙って紫衣を抱き締めた。紫衣は続けた。

「今まで誰にも言ってなかったことなんだけど父が亡くなったのは明らかに病院側に非があるの。院内感染なの。でもね母もその先生にお世話になっていたからすぐには言えなかったの」

紫衣の話によると、久史は肺が苦しいと入院することになった。調べても命や痛みに影響するものはなかった。紫衣は毎日父のいる病院に見舞いに行った。父は苦しくて食べられなくてどんどん痩せていた。

 

👉『青の中へ』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】妻の姉をソファーに連れて行き、そこにそっと横たえた。彼女は泣き続けながらも、それに抵抗することはなかった

【注目記事】滑落者を発見。「もう一人はダメだ。もうそろそろ死ぬ。置いていくしかない…お前一人引き上げるので精一杯だ。」