プロローグ

ヌシの話をしよう。

ヌシは黒とグレーの縞々猫。

ヌシは我が家の大切な家族の一員だった。

ヌシとの出会い、そして別れを通して、わたしがどのようにペットロスを乗り越えたか、その顛末を書き記すことで、やっと前に進める気がする。

第一章 ヌシとの出会い

ヌシとの最初の出会いは、当時人気の、河川敷近くにあった犬猫のテーマパークだった。

そこでは、里親を探している子猫を集めて、週末に里親探しのイベントをやっていた。当時、子猫を探していたわたしは、そのイベントに興味を持ち、何週間か続けて出かけていたが、毎回すごい競争率で、なかなか子猫を獲得できずにいた。

子猫たちは塀に囲われた会場で、ケージから一斉に放たれる。それを一番最初に保護した人が里親になる権利を獲得する、というルールで、中には虫取り網持参の強者のおじさんもいて、脱兎のごとく逃げ回る子猫たちは、早々に新しい飼い主さんの元に迎えられていった。

わたしが参加したその日も、三匹の子猫が持ち込まれるという情報だったが、時間が過ぎてもなかなか始まらない。聞くと、遠方から車でこちらへ向かっていた里親さんが、途中で気が変わって引き返したという。そういうこともよくあるようだ。引き返す車中で子猫を抱きしめる里親さんが、目に浮かぶようだ。待ちくたびれた参加者たちも、それじゃあ、今回は仕方がないねとそれぞれ家路に向かい始めた。

また今日もだめだったか。子猫をお迎えするのは思いのほか難しい。めげない気力と足腰の瞬発力も必要だ。あとは運と縁。気が抜けて時間と暇を持て余したわたしは、テーマパークに隣接のペットショップに、ふらっと立ち寄ってみることにした。

そこには血統書付きの立派な値段の猫が一匹ずつ、ていねいに販売されていたが、わたしには、とても手の出る金額ではなかった。あきらめて帰りかけたわたしの目に、ふと止まったのが、「ヌシ」だった。