【前回の記事を読む】人と同じように暮らしているのに、人より先に歳をとっていく愛猫……だんだん寝る時間が増えていき……
第四章 ヌシとの別れ
ヌシは、うちに帰るとどんなに遅くても、「お帰りなさいませ」と出迎えてくれる、律儀な猫だった。人間なんて都合のいいもので、自分の年齢と猫の年齢が並行して、いつまでも一緒に暮らせるのではないかと、つい錯覚してしまう。
平穏な日々がまた明日も明後日も続くと思っていた。しかし、着実にヌシは年齢を重ねていった。
突然体調を崩したヌシを連れて、わたしは動物病院を訪れた。久しぶりの来院にもかかわらず、十八年前のカルテがちゃんと残してあったので、びっくりした。
先生の前では気丈に両足で立っていて、「立てていますね」と言われ、もしかしてわたしの勘違いかもしれないと思うほど安定していた。
高齢でもあるので、点滴と注射で様子を見ましょうと、処置を施してもらい、隣接のペットショップで緩めのフードとペットシーツを買って、帰途につく。
横にヌシを寝かせながら、インターネットで症状を検索すると、もしかしたら重篤な状態かもしれないと嫌な予感がして、パソコンを閉じてしまう。
夜中、容態が急変して、もう、何もやってあげられないのが悲しかった。
最後にヌシの大好きだったバニラアイスをスポイトで口に垂らして、いつものように添い寝してあげた。
最後は誰にも迷惑をかけずに、穏やかな笑顔で逝った。ヌシは確かに微笑んで逝ってくれた。
女神様は、ヌシの様子をじっと遠くから見守っていた。その間、何も飲まず何も食べなかった。
ヌシと最後のお別れをして、わたしも十八年分の整理を始めた。とにかく、部屋中の掃除を夢中でやり始めた。カーペットを洗い、ヌシの思い出のものをすべて処分した。血統書も捨てた。長丁場になるだろうとネットで注文した強制給仕用のシリンダーが、今さら届いたりした。
ヌシが好きで寝ていたベッドシーツも寝床もそのまま捨てた。次は物置の段ボールを一つ一つ開けて、何か捨てるものがないか探し始める。十八年という重みをヌシと重ねてわたしはいったい何を清算したいのだろう?
片付けようとして逆に混沌と散らかったリビングにぺたりと座り、ふと周りを見渡すと、すっかり夜になっていた。