【前回の記事を読む】血統書付きの可愛い子猫たち…ではなく、一匹だけ中途半端に育った変な目つきの子が目にとまった。白い砂が敷かれたトレイの中で…

第一章 ヌシとの出会い

ヌシと過ごした春夏秋冬

ヌシと過ごした四季を記してみる。

[春]

あけぼの、外には桜吹雪、ひとひら舞って窓の外に張りついた桜の花びらを、何度も取ろうと試みては滑り落ちる、を繰り返すヌシ。

電線に止まってそれを見ているカラスを見つけて、「カカカ」と威嚇する。にゃあ、じゃなくて、カカカ、なんだ。初めて聞いた変な鳴き声。

それにも飽きると、次はお散歩するワンちゃんを眺めていた。視線の先にはいろんな犬種のワンちゃんがいて、その飼い主さんも同じような色調の服を着ていた。お散歩がよほど嬉しいのか、元気が余って敷石にぶつかって転んでいるワンちゃんもいる。春に生まれたばかりのちび犬ちゃんは可愛い服を着て、その子と同じようにおすましのお姉さんに連れられて歩いている。

[夏]

プールサイドのベンチよろしく、猫シャンのハーブに包まれてうとうと居眠りのヌシ。

真夏の暑さはちょっと苦手なヌシだから、涼しいクーラーの当たる場所で、窓越しの風景を眺めて過ごしている。日傘をさして通りゆく人々、日中を避けてお散歩のワンちゃんは早朝に見かけるようになった。サマータイムかな。元気にはしゃいで右に大きくカーブを描いて敷石にぶつかっていくワンちゃんを飼い主さんは笑いながら見ている。

そろそろ三時のおやつの時間、ヌシはバニラアイスが大のお気に入りで、蓋をあけるとすぐに飛んでくる。甘くて濃厚な味は、母猫のミルクの味なのか、いつまでもアイスの蓋をぺろぺろと舐めている。

ミルクの海に漂うヌシの姿を連想しながら、わたしもお昼寝。のんびりな夏のひと時。

[秋]

紅葉を眺めながら、高い、高い空、夕暮れを楽しむヌシ、太陽の角度でヌシは座る窓辺の位置を変えていた。もうずいぶんと端っこに移動したようだ。ヌシの視線の先にはいつものワンちゃんがいた。とととと、勢いよく敷石にぶつかって、転んだまま、四肢で宙をかいている。

壊れた機械仕掛けのおもちゃのような動作を繰り返すその子を、飼い主さんは大事そうに抱え上げ連れて帰っていった。

[冬]

外に降り積もる雪を、こたつの中からあくびしながら見ていたヌシ。今週は大雪になりそうです、とコート姿の天気予報のお姉さんを横目に、急いで身支度を済ませ、仕事に出かけるわたしを、玄関でいってらっしゃいとヌシが見送る。毎日の儀式だ。

ヌシはこの後、こたつで長いお昼寝をするのだろう。

窓の外に、お散歩するワンちゃんの姿を見かけなくなって久しい。倒れたまま四肢で宙をかいていたあの子は、今頃どうしているのだろう。そうだ、ヌシのごはんがそろそろなくなりそうだった。買って帰らなきゃ。

たまには違った味を試してみようか。今年の冬は長くなりそうだ。