【前回の記事を読む】鹿が友人に突進してきた!必死に逃げるが、鹿は止まらない!その原因は彼の前世に?
第二回 再会
二〇一三年
仏壇の写真を前に、生まれ変わっているなら、どうか会いに来てほしいと祈る。
線香の煙に包まれる母の写真を見ていると涙がこぼれる。前世ではなく未来を見通す力があれば、父と共に母を守ることができたはずだ。
楽観的な父は、今は再会を信じて母と約束したという公園に足繁く通っている。 母が現世に生まれ変わっている確証はないのに、だ。もし生まれ変わっているとしても、まだ子供である。しかも性別が女であるとは限らない。
それでも父は、毎日公園で遊ぶ子供たちをベンチに座り観察している。父は母の生まれ変わりなら、必ず分かると自信満々だった。
いや、必死にそう自分に言いきかせているだけなのかもしれない。今の父にとって、母との再会だけが心の糧になっているのかもしれない。
人は、奇跡は起きないと言いつつも、本当は心の中で奇跡が起こるのを願っていたりする。
仏前に手を合わせた後、階下に下りると、喫茶店につながるドアが開き、待ってましたとばかりに、ふくちゃんが一万円札を差し出した。
「光、悪いけどお客さんがいて手が離せないから、代わりにおつかい行ってきてくれる?仏壇に供える花とお菓子と、それから大根もお願い」
「分かった」
僕は一万円札を手に外に出た。夕焼け雲がのんびりと空を泳いでいる。外からガラス張りの店内を見ると、なっちゃんが窓際でテーブルを拭いていた。なっちゃんは天涯孤独の身で、幼い頃から施設で育ったという。
母の親友であるなっちゃんは、母が他界してから今まで、ふくちゃんが経営する喫茶店で働いている。もともとは、都心にあるホテルのレストランで配膳の仕事をしていた。