まえがき

この随筆の多くは、社外秘の備忘録として書き残していたものです。家族にも内緒にして引き出しに仕舞っていましたが、年齢的にも元気な時期はそう長くないので、人生をしたためたものとして折角なので公表しようという気持ちになりました。

多くの人はご自分の足跡を書き残すことなく一生を終えるのが普通でしょう。その点、私自身は文章を書くことがまったく苦にならないので、小説を書くような才能はなくとも、随筆として自分の考えを文章化することは可能だろうと考え、自分の歩んだ人生を一通り纏めることを決意して十年くらい前から書き始めました。

私は、幼い時の両親の離婚によって高校卒業まで祖父母に育てられ、卒業後に上京して社会人になり、はじめは一端のサラリーマンだったはずがあらゆる運命が絡み合い、最終的には一企業の経営者になっていました。

誰しも人生において、人には言えない様々な苦労があるはずです。私はいつしか、それらの苦労は自分が人間として成長するために与えられたものだと考えるようになりました。

本稿は私の生い立ちや人生の足跡をすべて記したものではありませんが、ほんの少しだけでも皆様方に共感していただければ幸いです。四、五歳頃からの記憶は六十年以上も過ぎた今でも少しありますので、記憶を辿りながら当時に遡って話を進めたいと思います。

私の書籍をお読みいただき、同じような苦労をなさっている人に少しでも勇気が与えられたらこの上なくうれしく思います。