第1話 崖の上で啼(な)く猫とゲームの始まり
2匹の猫が見上げるほど高い岩から、少年を見ています。
「にぎゃーん。にぎゃあー」
黒猫が辺りに響き渡る低い声で啼(な)きました。
少年が運動靴に普段着の軽装でヘルメットもかぶらずに、垂直にそそり立つ崖の根元を登り始めました。何十メートルもの高さの垂直な崖で、風化して崩れ落ちた岩のかけらが足元に積もっています。
2匹の猫は少年が頂上には登ってこないだろうと思っていましたが、巨石の足元を斜めに登り、秘密の場所に向かっていることに、戸惑い不安げな様子でした。
〈ワシで追い払え、霧や霞で見えぬようにするんだ〉
黒猫が厳しい口調で言いました。
〈万一あの入り口が見つかったら……〉
弱気そうな三毛猫が長いひげと一緒に声を震わせます。
ワシは上空を舞っていますが太陽の光が強く、霞(かすみ)も霧(きり)も出る気配はありません。黒猫は身もだえして少年を見ました。
少年はずんずん登って、ワシ岩のすぐ下まで来ました。
〈秘密の入り口がこいつに見つかってしまう〉
三毛猫が悲痛な声で黒猫に訴えました。
「ギャオー」
短く強く、そして悲しい啼き声を発したのは黒猫でした。
掴まっていた樹木が折れ、少年は深い谷へと転落したのです。
急に黒雲が現れました。
〈魔不惑命(まふぁるめ)だなー〉
黒猫がつぶやきました。
黒雲が2匹の子猫に言いました。
〈死のゲームの始まりだ〉
黒猫は黙っていません。
〈死んだらゲームの終わりだ〉
黒雲は天空を震わせるような声で言いました。
〈あの子は死んでおらん〉
黒猫は真実ではないと、反発を強めて言いました。
〈落ちるところを見た〉
雷のような響きが2匹に降りかかってきました。
〈おまえはまぼろしを見たのだ〉
2匹の子猫は小さく口を開け険しい表情でつぶやきました。
〈デスゲーム、スタート〉