「一郎、気がついたか」

太郎が心配そうに、僕を抱き寄せる。

「ああ、大丈夫だ。起こしてくれ」

支えられながら、ゆっくりと上半身を起こす。右足の固く巻かれた包帯から血が滲み出ていた。頭の片隅で光が、「大丈夫。これは夢なのだから」と、囁きかける。

そうだ、これは前世の記憶であって現実ではない。前世の夢を見る度に、そう自分に言い聞かせてきた。だが、あたりを見回し、あまりにも悲惨な光景を目の当たりにしては、平静を保つことなどできるはずもなかった。

無数の重なり合う死体の中に、トサカの姿もあった。

先ほどまで一緒に笑いあっていた同士が、人形のように置かれていた。トサカの半分焼け焦げた顔が視界に入り、すぐに目を背ける。

今、自分が見ている光景が、実際に起こったことだとは思いたくなかった。 生きてはいても、怪我をしていない者は、一人もいなかった。太郎も僕を庇ってか、左腕から血を流していた。

「大丈夫だ。俺が必ず守ってやる。絶対に生きて、一緒に帰るんだ」

太郎が腰に下げていた手ぬぐいで、僕の額の汗を拭う。

「故郷に帰る……。絶対に生きて」

息が苦しくなり、僕は太郎に抱かれたまま意識を失った。

次回更新は6月15日(日)、21時の予定です。

 

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