ダダダダダ、ダダダダダ、と機関銃のような音がして足が竦んでしまう。空襲警報から逃げる間もなく攻撃されている。ギャー、という女性の悲鳴も聞こえる。
その場にしゃがみ込み、耳を押さえながら恐る恐る顔だけ外に出すと、大きな飛行機が飛び去っていった。
兵舎の横で、女性たちを守るように覆いかぶさっていた兵士たちが立ち上がり、女性たちを助け起こした。
見たところ怪我人もなく、皆安堵している。
「一郎、大丈夫か? 熱は下がったのか?」
背の高いゲジゲジ眉の男が話しかけてきた。僕は熱を出し、兵舎で休んでいたらしい。男は僕の額に手を当て、「よし、熱は下がったな」と、前歯が欠けた歯を見せた。
「太郎が一晩中看病したおかげだな」
彼の後ろから、ひょっこり顔を出した男が言った。ゲジゲジ眉の男の名前が、太郎だと分かる。
「そうだ。俺のおかげだな」
太郎は満足げに笑みを浮かべると、僕の肩に手を置いた。
「トサカも心配してたわりには、すぐに寝てたもんな」
太郎の後ろから出てきた小柄な男が、照れくさそうに首に手を当てる。頭の真ん中の部分だけ髪が逆立っているので、トサカと呼ばれているのだろうと思った。
ほんの数分だが、三人でたわいない冗談を交えながら笑いあった。先ほどまで爆撃から身を守ろうとしていたとは思えないほど、つかの間の穏やかな時間だった。
突然、真っ暗な闇に包まれたかと思うと、白い靄(もや)が視界を遮る。やがて白い靄が消失すると、目の前には青々とした空が広がっていた。空は美しく、色鮮やかな彩雲の光が僕を見下ろしていた。
ここは、天国なのか。朦朧とする頭で考える。
「一郎、一郎」
誰かが耳元で叫び、うっすら目を開けると、見慣れた顔がそこにあった。