【前回の記事を読む】「目を閉じて十まで数えてごらん」―緊張から激しくなる鼓動。ゆっくりと目を開けた。父が視線を向けた先。目の前にいたのは…

第二回 再会

勝って来るぞと 勇ましく 誓って故郷を 出たからは

手柄たてずに 死なりょうか

進軍ラッパ 聴くたびに

人々が日の丸の旗を手に歌っている。

瞼に浮かぶ 旗の波

※「露営の歌」薮内喜一郎 作詞

その歌声が向かう先には、赤と白のたすきを両肩から交互にかけた軍服姿の僕がいた。

「一郎、必ず生きて、生きて帰っておいで」

僕を一郎と呼ぶ、もんぺ姿の女性は母親だと直感した。母は口を固く閉じ、必死に涙を流すまいとしている。小刻みに震える日の丸の旗を背に、僕は故郷を後にした。

「ヴー、ヴー、ヴー、ヴー、ヴー」

突然、甲子園大会で鳴らされるサイレンのような大きな音が頭に響き渡る。寝ていた僕は飛び起き、あたりを見回した。

「ここは、どこだ……」

埃やカビの臭いが鼻につく。いつもより遙かにリアルな夢の中にいるようだ。部屋というよりは、倉庫のようだった。広さは三十平米ほどだろうか。

薄暗い入り口から中央に、人が一人歩けるぐらいの通路がある。左右両側には三十センチほどの高さに、ところどころ変色した畳が敷き詰められている。

目の前の畳の上に、九人分の布団がきっちりと畳まれ並んでいた。僕が寝ていた側の布団の数も九人分なので、自分を合わせて十八人がここで生活しているようだ。

サイレンの音があまりにリアルで現実だと思ったが、自分が着ている軍服を見て、ここは兵舎で、前世の夢だと確信する。

「空襲警報だ! 早く防空壕へ行け!」

外から迫逼した声があがる。その声に反応した僕の体も外へ出ようとした、その時だった。