二人は、登山客や観光客で混雑する松本駅で、ローカル線に乗り換えた。
「おじいちゃんは、どうしたの?」
毎年、祖父の仙吉が迎えに来ていたので気になった。美千代は少し顔を曇らせたが、
「ああ、おじいちゃんね。ちょっとカゼをひいて寝てるけど、ルリエの顔を見ればすぐに元気になるって、朝から待ってるよ」
また笑顔を取り戻す。どこまでも続く田園の風景の中を、のんびり走る電車に三十分ほど乗ってから、バスで曲がりくねった山道を登っていく。客はルリエと美千代のほかに、年寄りが三人乗っているだけだ。
長いトンネルを抜けてしばらくすると、なつかしい景色が目の中に飛び込んできた。
深い緑に囲まれた赤い屋根や青い屋根の集落が見えてくる。バスも木々の緑に包まれ、涼しい風が吹き込んでくる。つい何時間か前まで、真夏の太陽が照りつけ、巨大なビルや車がひしめく大都会にいたことが信じられない。
「素敵! ヤッホー」
小さな停留所で降りると、ルリエは思わずスキップした。それほど空気がさわやかで気持ちがいいのだ。飛び跳ねるようにして、山の家への坂道を上っていく。
「そんなにはしゃいで、転ばないようにね」
「大丈夫、早くおじいちゃんや、ポチやミーコに会いたいの」
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