【前回記事を読む】夏休みは毎年、信州の祖父母の家で過ごしている。小さな停留所で降りると思わずスキップした。つい何時間か前まで大都会にいたのに…
プロローグ
かけっこや登山は苦手なのに、ルリエは軽々と走っていった。緑の木立に囲まれた赤い屋根の山の家が見えてきた。柴犬のポチが尻尾を振って、こっちへ走ってくる。
「ポチ、こんにちは! 一年振りなのに、わたしのこと覚えていてくれたんだ」
嬉しそうにじゃれついてくるポチの頭をなでてやる。ヤギのミーコも、こっちを向いて鳴いている。ポチやミーコの声でわかったのか、浴衣姿の仙吉が縁側に出てきた。
「ルリエ、遠い所、よく来たな。しばらく見んうちに、ずいぶん背が伸びたじゃないか!」
「おじいちゃん、カゼで寝てるって、おばあちゃんが言ってたけど、もういいの?」
ルリエは、まだ息を弾ませていた。
「なあに、ルリエの元気な顔を見たら、カゼなんかどこかへ飛んでいったよ! さあ、上がれ。お前の好きなスイカを冷やしてあるぞ」
仙吉はごま塩頭をなでながら、バケツの中のスイカを指さす。
「わあ、嬉しい!」
仙吉が畑で採ったばかりのスイカは甘くみずみずしく、母が買ってくるものとなんか比べものにならない。スイカだけでなく、トマトもキュウリも別の野菜のようにおいしいのだ。東京では食欲の出なかったルリエも、山の家のスイカやおやきは、たらふく食べた。
夕暮れ、ルリエはホタルが見たくなった。
「おばあちゃん、今年はホタルどう?」
「ホタルね……。まだ見かけないよ」