【前回記事を読む】「ここはアルプスの雪解け水があるからな」おじいちゃんが自慢していた谷川の水が、去年の半分になっている。ホタルも全然いなくて…

プロローグ

信州へ来て十日がすぎた。

緑に囲まれた山の生活は快適だ。空気がいつもひんやりとさわやかで、食べるものは新鮮でおいしく、夜もぐっすりと眠れる。勉強の方も、まあそれなりにはかどっていた。夜空の星々もきらきらと美しく、毎晩見ても飽きることがない。

そんなとき、東京のすず子から手紙が届いた。

「ルリちゃん、お元気ですか。涼しい信州の山の家で、ホタルを見たり、星を見たり、きれいな川で泳いだり、きっとステキな毎日だろうと思います。

東京は全然雨が降らず、一日中ベタベタとすごい暑さです。それに楽しみにしていた海水浴ですが、父の仕事の都合でキャンセルになりました。

母に文句を言って、ルリちゃんのことを話しました。母は、もしおじゃまでなかったら、遊びに行ってもいいと言いました。少し厚かましい気もしますが、塾の夏期講習が終わる八月七日ごろ、そっちへ行ってもいいですか? わたしも、東京の暑さから抜け出して、ホタルの舞うさわやかな信州へ行ってみたいです。急ですみませんが、よろしくお願いします」

ルリエは、すず子からの思いがけない手紙を受けて小躍りした。

大自然と触れ合うことのできる山の家の生活は、毎日が感動的だ。しかし、ルリエにとって物足りないことがあった。それは、仲よしの友だちがいないことだ。ルリエはヤギのミーコに話しかけたり、ポチを連れて散歩に行ったりしてすごしていた。

「ねえ、おばあちゃん、八月の七日ごろ、東京から仲よしの友だちが遊びに来たいって言うんだけど、いーい?」

「お前の大事な友だちだもの、いやとは言えないさ。こんな山奥でよかったら、何日でも泊めてやるよ」

美千代は、ルリエの真剣な顔に笑顔で答えた。