「そう、じゃあ、ポチを連れて川へ見に行ってくる」

「もうじき夕ご飯だから、遅くならないようにね」

「三十分ぐらいで帰ってくる」

ルリエは、ポチと一緒に谷川の方へ下りていった。ちょうど夕陽がアルプスへ沈むところで、西の空がバラ色に染められていく。木々の梢で、ヒグラシが鳴いている。

静かなせせらぎが聞こえてきた。辺りは薄暗く、そろそろホタルが舞い始めてもいいころだ。ルリエは、ポチの頭をなでながらホタルが現れるのを待った。五分、十分と待ったが、ホタルは姿を見せない。

「ポチ、おかしいね。どうしたんだろう?」

ルリエが小学校低学年のころなど、わざわざ谷川まで行かなくても、暗くなると庭先に数えられないくらいのホタルがあふれ飛び、部屋の中にまで入り込んできた。それがどうしたことか、二、三年前からだんだんと数が少なくなり、去年は庭先までやって来るホタルは、ほとんどいなくなってしまったのだ。

二十分ほど待ったが、ホタルは遂に出なかった。

「今日はもうだめみたい。ポチ、帰りましょう」

ルリエは肩を落として、暗い道を引き返していった。

翌朝、小鳥の声で目が覚めた。東京と違って夜も涼しく、久し振りにぐっすりと眠れた。

朝食後、ルリエはまた谷川へ行ってみようと思った。

「ポチ、おいで。朝の散歩だよ」

ポチは嬉しそうに尻尾を振って、ルリエに続く。草むらで、朝つゆがきらめいている。

谷川に着いてびっくりした。水量が去年の半分程度しかないのだ。靴を脱いで中へ入ってみたが、深いところでもルリエの膝ぐらいしかない。これでは、泳ぐこともできそうにない。

「そうか。東京も雨が降らなくて水不足だったけど、こっちもそうなんだ。これじゃあ、ホタルだって出てこられないよね。でも、ポチ、こんなことって珍しいね」

何年か前にも東京が水不足になりそうになって心配したことがあったが、こっちへ来ると谷川が満々と流れ、水に困っている様子など少しもなかった。仙吉に尋ねると、

「ああ、ここはアルプスの雪解け水が流れてくるからな。雨なんか少しぐらい降らなくたって困ることはない」

自慢そうに答えた。

(今年は、アルプスの雪が少なかったのかな?)

ルリエは、首を傾げながら帰ってきた。