カジカの住む清流が目に浮かんでくる。したたるような緑の向こうに、残雪をいただくアルプスの峰々がそびえている。想像しただけで、気分がさわやかになる。
「ルリちゃんはいいなあ。夏休み中、長野の家へ行くんでしょう。わたしなんか、八月に二日海へ行くだけよ。もう、いやになっちゃう!」
「よかったら、すずちゃんも遊びに来ない。おばあちゃんに言っといてあげる。広い家だから、大丈夫。すずちゃんが来てくれたら嬉しいな」
「ありがとう。でも、塾の夏期講習、申し込んであるの。ごめんね」
親友のすず子が来ないのは残念だが、ルリエは、これから始まる山の家での生活に胸を躍らせていた。
(まず、あの冷たい谷川に入って泳いでみたい。学校の生ぬるいプールとなんか比べものにならない。それから、ホタル。今年もいっぱい出るといいな。夜の星も楽しみ。おじいちゃんのスイカや、おばあちゃんのおやきも、おいしいだろうな!)
それらはどれも、都会では味わえないものばかりだ。ルリエは、心の中で好きな歌を口ずさみながら、移り変わる景色に目をやっていた。
終点の松本へ着くと、祖母の美千代が迎えにきていた。ルリエは、思いきり手を振る。
「ルリエ、よく来たね。おや、また背が高くなったよ!」
美千代は、一年振りに見るルリエの姿に目を細めた。
「おばあちゃん、今年もお世話になります。よろしくお願いします」
「さすが、中学二年にもなると、あいさつの仕方が違うね」