どうにか腹がふくれると、また痛む体を、近くの松林のなかにひきずっていった。林のなかでは、風が音をたてて吹いていた。
赤べえは、大きなうろのある松の木の下に腰をおろして、海をみつめながら、ハラハラと涙をながした。
―おいらは、どうして、こんなに運がわるいのだろう。仲間にはおいだされ、人間どもには半殺しの目にあわされる……それにしても、おいらのつのは、いったい、どこにいってしまったんだろう―
涙でくもった目をあげて、空をみると、目のまえの松の葉が、宝石のようにキラキラひかってみえる。しゃくりあげながら、しばらくそれをみていたが、ふいにその葉をむしりとって、両手でゴシゴシもみはじめた。
「そうとも、露にぬれた松の葉は、つの生えの特効薬だと、ばあちゃんがいっていたっけ……ひょっとしたら、ほんとうに、つのが生えてくるかもしれない……どうか、生えてきますように……つのはえ、つのはえ、つの、生えよ……」
そうつぶやきながら、また松の葉をむしりとっては熱心にもみ、でてきた青い汁を、つののあったあたりに、べたべたとぬりつけた。
長かった一日がくれると、松の木のうろをはいだしてきて、浜におりた。だれもいないのをたしかめてから、打ちあげられた海藻や、トンビの落とした魚をひろってガツガツと食い、どうにか腹がふくれると、また夜露にぬれた松葉をもんで、頭に汁をなすりつけた。
それから、また、うろのなかで眠って、つぎの日の夜には、浜で食べものをあさり、また松葉をもんで頭にぬった。
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