ただいま
釈放された後、まず亮(りょう)の家に向かった。
――山崎亮18歳。同じ瑛心高校の同級生で、小中学校も同じ幼馴染(おさななじみ)である。親は山崎HYCの会長だ。山崎HYCは社員三千人以上を抱える福祉事業を行う会社である、といってもこの事実を知ったのは瑛心高校に受かった時のことだ。
「なんだ、この家!」
俺の目は真ん丸だった。
「お帰りなさい」
「は、はじめまして。お母さん」
「いえ、私はこの家のお手伝いをしております、石田です」
「お手伝いさん」
この日、受験に受かったことより、亮の家のスケールの大きさに驚いた。「待って、今までの家は?」
「仮住まいの借家になります。旦那様が新機器開発のため昼夜問わず作業をしたいということで、この家は10年ほど会社の一部としておりました」石田さんが答えた。
小学校以来の親友でありながら、亮の家が金持ちだと気づきもしなかった。同時に、そういう雰囲気を一切感じさせなかった亮を心から尊敬した瞬間だった。それから何度か家に行ったことはあるが、両親は仕事で忙しいのか一度も見たことがなかった。
亮の家の前に立つ。何度見ても驚くほどの豪邸だ。石田さんがニコっと微笑んでくれ、亮の部屋に案内してくれた。
「よう。お前大変だったな。大丈夫か?」
亮はいつも通り接してくれる。今はこれが一番嬉(うれ)しい。
【イチオシ記事】あの日の夜のことは、私だけの秘め事。奥さまは何も知らないはずだ…。あの日以来、ご主人も私と距離を置こうと意識しているし…
【注目記事】ある日今までで一番ひどく殴られ蹴られ家中髪の毛を持って引きずり回され、発作的にアレルギーの薬を一瓶全部飲んでしまい…