まえがき
当たり前かもしれないけれど、人生は〝一期一会〟、出会っては別れ、別れては出会うの連続である。
人は、人との関わりなしでは暮らせないだろうから、望むと望まぬとに関わらず、たまたまこの時代に生まれ、たまたまこの地にいて、そして、たまたま行動をともにした、ごく一部の人たちが僕の周りにもいる。多い少ないの差はあっても誰にとってもそれは同じだろうし、生きるとはきっとそういうことの繰り返しなのだと思う。
これまであまり意識してこなかったけれど、人との出会いは運命と言ってもいい。奇跡的な確率によって引き寄せられた大切な巡り合わせではないか。
初恋の人というのは男女を問わず、一期一会のなかでは生涯もっとも忘れられない人のひとりになるのではないか。〝僕〟という1人の少年にもそういう女の子はいた。
中学時代の同級生だった根本昭絵(ねもとあきえ)は、もちろん可愛かったけれど、けっして目立つようなタイプではなかった。早熟の傾向はあったが、控えめでおとなしい。弓道部だったが、飛び抜けて何かに秀(ひい)でたところもない。ときに物憂げな表情を浮かべていた。
僕もそんな性格だったから、身の丈に合っていそうな子というと失礼になってしまうが、要は、そういう人選だったかもしれない。自分のようなかなり内気な人間にも普通に接してくれた。それでも僕のほうがずっとずっと奥手だったから、告白なんてことは当然できなかった。
そんなことだから普通は遠くから眺めているだけの淡い恋心で終わるのだろうけれど、僕の場合は一度だけデートというか、二人で出かけることができた。
彼女とは、偶然同じ学習塾に通っていた。僕の成績は中の上くらい。一応進学校を目指していた。
そんな学習塾でのある日、意図はまったくなかったと思うのだが、彼女が僕の前の机に座った。席次は固定されていなかったから、3等の宝くじよりは少し高い確率でそういう機会がめぐってきてもおかしくない。
でも、今回の偶然だけは、運命と言うしかない。おそらくこの日がなければ、二人の外出はなかっただろうし、それほど想い続けることもなかったし、いまになって動揺の日々を過ごすこともなかった。