今にして思えば、戦後の混乱期に子供なりに必死に智恵を働かせて生き抜こうとした健気な姿かもしれない。少なくとも悪賢い子供を称しているのではないことは確かだ。
今日は食堂においても「ほら、好きなものを食べなさい」という豊かな時代である。そこであなたにお伺い!
「この子ばっかりは……」と言われたことがありますか?
第一話 世直し大明神
ケンの家庭
昭和17(1942)年。主人公、ケンは新潟県の片田舎に生まれた。
第2次大戦の真っ最中である。本名は大沢謙治。上杉謙信のように潔く強い人間になって自分を治めろ! と、父親が「謙治」という名前をつけたのだと母ちゃんは教えてくれた。
しかし、彼を本名で呼ぶ者は少ない。多くは「さわケン」、あるいは単に「ケン」。同級生は「ケンちゃん」と呼んだ。
昭和20年の終戦直前、父は南の国で戦死した。ケンが数え年4歳のときであった。その父は遺骨箱の中のわずかな石ころとなって帰ってきた。
噂では、このとき母ちゃんはきれいな清水が流れる小川で、幾度も幾度もその石を洗っていたという。
彼には4つ違いの姉がいる。麗子という。しっかりものであった。このように、ケンの家は母子三人の典型的な母親世帯であった。
もっとも同級生の多くが、一家の大黒柱を戦争で失っていたから、そう肩身の狭い思いはしなかったし、さして不都合とも思わなかった。
いや、むしろ父親のいる家庭こそが不思議に思えた。なぜ父親がいるのだろうか? と。
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