そこで、草薙は自分の疑念に白黒を付けるためもあって、自分の班にいる田所憲三刑事に飯島めいの詰めの捜査を頼んだ。

田所憲三も堺刑事同様、所轄の西城警察署から捜査本部へ吸い上げのベテラン刑事で、来年には定年を控えている。前頭部の髪は大きく後退しているが、残っている白髪まじりの髪が短く刈られていて清潔感がある。

目元の優しい丸顔で、笑うと目尻に深いしわが寄る。どう見ても、人のいいおじさんだ。しかし、その風貌に似合わず、数々の難事件で犯人を追い詰めてきたその実力は、署内で一目も二目も置かれている。

今回、草薙班に配されたが、定年を控え、いささか体力も衰えてきている田所には、神保署長と草薙の配慮もあって、主に捜査記録の整理などを中心に署内の業務が任されていた。

こうして捜査現場を外されたことに、心中はともかく、不満を言うこともなく淡々と仕事をこなしていた田所は、飯島めいの動静を念のため確認するだけの残務整理のような仕事にもかかわらず、快(こころよ)く引き受けてくれた。

その田所からの報告によると、飯島めいは、事件直後は気丈に出社していたが、さすがに居づらくなったのか、今は退社同然の状態で連絡も取れないとのことであった。老練で穏やかな田所刑事に、カズコブランド社の多くの社員が素直に話をしてくれたようだ。

社長に可愛がられていたことに対するやっかみと、仕事は出来るが大人しいというか妙に冷たく取っ付きにくい飯島めいの性格から、飯島の個人的な生活を知っているほど親しくしている者は一人もいなかった。驚いたことに、飯島がどこに住んでいるかさえ誰も知らなかった。

次回更新は5月24日(土)、22時の予定です。

 

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