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田代正樹と第三の人物の二人について捜査が進む中、捜査本部では飯島めいの存在は忘れられかけていた。しかし、飯島の事情聴取を直接行なった草薙と堺には、どうしても気になることがあった。
小柄で華奢な上にいかにも大人しそうに見える飯島が、事情聴取中に見せた態度の豹変ぶりが二人の心に引っかかっていた。
捜査会議の場で草薙がそのことを話すと、今どきの女の子は怒らせるとそれくらいのことは当たり前で、口汚くののしることも珍しくないですよと若い刑事たちから一笑に付されて終わった。
確かに、国枝和子と愛憎関係にあるという推論は飛躍し過ぎているのかもしれない。しかし草薙は、二人の間に何かトラブルがあり、何かの拍子に飯島めいが態度を豹変させて凶行に及んだのではないかという気持ちを捨てきれないでいた。
話してみると、堺も同じような疑念を抱いていた。捜査会議では、当初から屈強な男性の犯行とのプロファイルが描かれていたが、犯行の凶暴さからそれは妥当な推論と思われ、草薙自身も飯島が単独で犯した犯罪と思ってはいなかった。
しかも、国枝和子の携帯電話の送受信記録から、飯島の犯行とするには時間的に無理があることも分かっていた。
少なくとも飯島めいが主犯として事件に関わっている可能性がほぼなくなったため、大半の捜査員が田代正樹と第三の男に振り向けられていた。
草薙の班も、各所の防犯カメラの画像解析を担当している上に、第三の男の捜査に大半の捜査員を振り分けることになり、草薙が疑念を感じている飯島めいのことまで手が回らなくなった。