【前回の記事を読む】成立したように思えたアリバイだったが――「その後、どうされました?」宇佐見は煽るように問いただす
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「これは田代さんではないかと、たくさんの人が言ってますが」
「変装ってことですか? 勘弁して下さいよ。そもそも、これはどこで撮った写真なんですか?」
「それはちょっと言えませんが、当日の現場の近くです。本当に田代さん、西城公園には行ってませんか?」
「やっぱり完全に犯人扱いですね。いいでしょう。私は、これ以上協力はしません。弁護士を考えますので。後で誤認だったなんて言わないで下さいよ」
「あ、いやいや、犯人扱いというわけではありません。ともかく、今はいろいろ情報が欲しい段階ですから。じゃ、この写真、田代さんに心当たりはないということですね。分かりました。確認をさせてもらえばそれで結構です。
お聞きしたいことはだいたい終わりましたので、今日はこれで。何か思い出すことや参考になることがございましたら、是非ご連絡下さい。今日は、ご協力ありがとうございました」
昨今、誤認逮捕やえん罪事件が世間を騒がせているだけに、宇佐見と佐伯は誤認という言葉に敏感になっていた。二人は起立をすると、田代に丁寧に頭を下げて聴取の終わりを告げた。
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遅々として進まなかった第三の人物の捜査に、ようやく進展が見られた。捜査会議の方針通り、防犯カメラに映った二人の男性の写真を提示しながらマンションの全住人に対して改めて聞き込みが行なわれた。
中には写真をまともに見ようともしない非協力的な態度の住人もいたが、秋月刑事率いる捜査班の地道な努力で、わずかながら光明が見えてきた。
この二度目の聞き込みで、田代正樹に似ている人物を見た記憶があるという住人は二人見つかったが、第三の人物を知っているあるいは見たという情報はやはり得られなかった。
ところが、三度目の聞き込みで、三階に住んでいる老夫婦の息子から、第三の人物に良く似た男性を一度見たという証言が得られた。