【前回の記事を読む】小さな手の影は、俺をからかうようにペタリ、ペタリと現れては消えた。――日暮れの廃屋にいたのは、河童ではなく男の子だった

夏の子供と星の海

マジメは、何も恐れていない様子で、ずかずかと家に入っていく。そして、さっき手の影がいくつも現れたガラスの引き戸のそばで足を止めた。

「あ」

そう声を漏らしたマジメの背中に隠れ、恐る恐る様子を窺うと、十歳に満たないくらいの男の子が、和室の隅に立っているのが見えた。

幽霊だ。子供の姿をした幽霊だ。

喉が、ひゅっと鳴った。

「あははは」

幽霊は、幽霊らしからぬ元気いっぱいの声で笑った。そして天使のような顔で、「今の顔見た? ウケる」と言った。

「おじさん、近所に住んでいる子です」

お化けの正体が近所の子供だった安堵よりも、からかわれたという怒りが先に立った。

手で示し、近所の誰それと紹介をするマジメの声は、もう俺には聞こえなかった。

「おい子供! 不法侵入で訴えるぞ!」

そこから、俺と子供の追いかけっこが始まった。しかし俺は、追いかけたことを早々に後悔した。すぐに捕まえて説教をするつもりが、追いかけっこは日が完全に落ちるまで続き、挙句の果て、俺は暗闇の中で迷子になり、引っ越した初日から、駐在所のお世話になることになった。