それから数日が経ち、河童の罠の整備をしていた俺に、マジメは、「それは何ですか?」と聞いた。
「これは亀の餌だ」
そう言って、俺は亀の餌をパラパラと撒いた。
河童の罠の整備は、俺の日課になっていた。毎日、川に通ううち、マジメと釣りをしているおっさんとは、すっかり顔なじみになった。おっさんとは、まだ一度も話したことはないが、気持ちの上では友人だ。
マジメは、手に持っていた白い網のようなものとロープを置いて、
「おじさん、僕のような学の浅い者が申し上げるのは大変心苦しいのですが、河童は亀の餌を食べないと思いますよ」と言った。
「甲羅あるじゃねーか」
「河童って色んな姿で伝えられていて、猿のような甲羅がない姿でも描かれています。人間に化けることもできるとか。食べ物はキュウリの他に、魚とか果物、あと尻子玉を食べるともいわれています」
「尻子玉って?」
「人間の肛門内にあるとされる架空の臓器で、河童は水中に人を引きずり込んで、尻子玉を抜くらしいんです」
「思っていたより河童は残忍」
ご当地キャラクターにいるような、かわいい河童を想像していた俺は、意外な河童の一面を知ってショックを受けた。マジメは、俺の心境など気にしていない様子で、白い網のようなものを河原に広げると、それにロープを結び付けた。
「それは何?」
「蚊帳です。河童の罠に使えないかと思って。河童の体長を考えると、ザルでは小さすぎるかと思います」
マジメは、蚊帳を網の代わりにして、ロープを使い木の枝に引っかけた。張られた網に河童が接触すると、木にかけていた部分が外れ、網に河童が絡まるという寸法だ。俺は、マジメの作った罠の出来栄えに、いたく感心した。そして、まだ見ぬ河童に思いを馳せつつ、少し離れた所で河童が罠にかかるのを待った。