しかし、宇佐見刑事は諦めていなかった。何度確かめても、写真の人物が田代正樹に似ているというカズコブランド社の多くの社員の証言は変わらなかった。

しかも、田代はカズコブランド社に出入りしていたアパレル業者だが、一年ほど前からカズコブランド社は、田代との取引を一方的に停止したとの証言を得た。

何でもカズコブランドの商品を不当に値引きして販売したとかで、国枝社長のお怒りを受けたようだと社員から説明があった。

そうすると、田代はカズコブランド社、ひいては国枝社長に恨みを抱いていたのではないか。宇佐見は、田代の怨恨による犯行ではないかという考えを捨てることが出来なかった。

熱心な宇佐見の進言と、自身が捜査をされているという事実を田代本人がそろそろ知る恐れも出てきたことから、植村管理官は田代正樹の事情聴取に踏み切った。

多摩川を挟んで東京と隣り合わせの川崎市武蔵小杉の駅前ビルに田代正樹が友人と共同経営をする「ブティック・ワン」がある。

武蔵小杉は、JR横須賀線と東急東横線、さらに東急目黒線が交差する交通の要にある駅で、その駅前には高層ビルが次々と建築され目覚ましい発展を見せている。

宇佐見刑事は携帯で田代正樹の在店を確認すると、佐伯刑事と一緒に店に向かった。ブティック・ワンは、広い歩道に面したビル一階の一等地とも言える場所に店を構えていた。

おしゃれな回転ドアを通って店内に入ると、高価そうな婦人服を纏(まと)った数体のマネキンが贅沢にスペースをとって配され、その奥にレディーメイドの服と婦人小物がセンスよく陳列されていた。

「いらっしゃいませ」

いかつい二人連れの男の客を迎えて、若い女性店員は戸惑い気味に挨拶をした。

「警視庁の宇佐見と言います」

宇佐見は警察手帳で身分を明かすと、田代正樹に面会を申し入れた。驚いた素振りで女性店員が店の奥に急ぐと、すぐに長身の男性が出てきた。

次回更新は5月18日(日)、22時の予定です。

 

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