数字の3と書かれたプラスチックのプレートが貼られたテーブルの上に、安っぽいコップになみなみと注がれた水が置かれたのを、栞は黙って見つめていた。
精一杯めかしこんだ栞は、その店にはあまりにも不似合いだったから、店員だけでなく周りの客からも容赦なく好奇の目を向けられることになった。
注文を済ませると間もなく、大きな海老と野菜の天婦羅と釜揚げうどんのセットが置かれて、栞は仕方なく箸をとる。惨めで恥ずかしくて何を食べても味なんか分からなかった。
谷口も黙ったままで箸を動かしているから、しらけてはいけないと思って何とか話題を探そうとしたけれど、それさえも上手くいかなかった。何かを口に運んでいるから涙がかろうじて止まっていてくれるだけだ。
「こういう店のわりにはさ、麺にコシがあったよね」
会計を済ませた谷口はバツの悪さを隠すためかそれだけ言うと、栞のために助手席のドアを開けた。
車に乗り込むとようやくホッとした栞は、気を取り直して笑顔でプレゼントを差し出す。不機嫌なままでいても仕方がない、ましてや感情に任せて不満をぶちまけるのは決して得策ではないと冷静に考えたからだ。
「お、ありがとう……開けてみていい?」
「ネクタイにしたの。きっと似合うと思うから普段たくさん使ってくれると嬉しいわ」
「あぁ、落ち着いたいい色だね。ありがとう。使わせてもらうよ」
暫く沈黙が続いた後、谷口がなぜ黙っていたのかが栞にも分かった。
「あのさ、ごめん。俺プレゼントも用意できなくて。ホントごめん」
栞は言葉を失ったままだ。