光陰は百代の過客なり――唐の詩人・李白は、時の流れは永遠の旅人だと詠っています。光陰には月日という意味もあれば、単純に光と陰も表します。前作のほぼ二十年後、二〇二三~四年を主な舞台にしました。
弁護士、医者、放送局勤務の三十代の三兄弟やその妻、また従妹の生き様が主軸です。彼らは世界各地や歴史、文学を逍遥(しょうよう)して知見を広げたり、若きアスリートの活躍に刺激を受けたり、切磋琢磨(せっさたくま)します。
この三世代の道行きには光り輝く未来もあれば、暗澹(あんたん)たる陰も待ち構えています。失われた三十年に首まで浸かり、社会経済の想像を超えるような事件、蹉跌(さてつ)、懊悩(おうのう)の連続です。
企業買収をめぐる陰謀や駆け引き、医療事件、職務の失態に翻弄(ほんろう)されます。祖母と母、娘たちは結婚、出産、子育てと仕事との両立や悲しい別れに遭遇しても懸命に生き抜きます。その都度、家族や友人の支えもあってなんとか乗り越えます。
親子、家族、家庭って何でしょうか? 二〇二四年一月十日。「わが『福澤伝』を語る」と題した作家の荒俣宏さんの講演を聞きました。福澤諭吉の修身要領を繙(ひもと)きながら、「家庭が良くなれば国も良くなる」という言葉が印象的でした。修身要領の第十条は「親子の愛情は純粋であり、これを傷つけないことは一家の幸福の基本である」と訓(おし)えています。
拙著にちりばめたもっともらしい御託(ごたく)はあくまで個人の感想です。不適切な表現が散見されるかもしれません。作中の人物はすべて創作しました。「これ〇〇さんかな」とドキッとしたとしても他人の空似に違いありません。各章の終わりにひょっこり顔を出すのは、もう一世代上の祖先たち。子孫や社会に温かくも皮肉な視線を注ぎます。
最後までページを繰っていただければ、これに勝る喜びはありません。