彼等はその先の人生を2人で、どう生きるつもりだったのか。私の心は思いもしなかったKの裏切りにズタズタになった。私自身の過去の全ての出来事さえも、汚されたという感情を拭うことができなかった。
青春もキラキラした希望も未来も全てを、KとN子2人に奪われたという思いが襲っていた。息をすることも苦しくて、心臓の鼓動がズッキン、ズッキンと全身で脈を打ち、痛みが小指の先まで走った。
後に彼はN子とはすぐに別れたらしく、色んな言い訳をして私とコンタクトをとろうとして来たが、到底Kを許すことなどできなかった。彼は学生運動の英雄という偶像を、私が勝手に作り上げていたことが悔やまれた。
結局Kは大学を卒業しても、チャンと就職することもなく、私と別れたあとは結婚することもなく、塾教師としてあちこちの塾を渡り歩いていたようだった。
やがてKは60歳目前にして胃癌が見つかり、余命幾ばくもない事を医師に告げられ、過去の同志達に会いたくなったのか、仲間に連絡をして行ったと聞いた。高校時代に一緒に学習会に出ていた彼等は、お節介にも生きているうちに私に会わせようと話が決まり、私に連絡を取ろうとしていた。
だが誰とも会えずに、彼は他界したと聞いた。私はあの時から、学生運動や学習会を一緒にした誰とも連絡を取っていなかったし、誰とも会いたくなかった。若かった私にとって、その時の心の傷は生涯癒されることは、ないと思っていた……。
そんな私だったが、数年後に新たな出会いがあり、恋をした。そして後に結婚をした。優しく爽やかな彼は、今も心は青年のような人である。だが自称「湘南ボーイ」の彼も、70歳を超えた現在は、少し頭頂部が寂しくなったおじさんになってしまった。
私はいつしかKのことを思い出すことなどなくなっていた。過去にあれほど傷ついた出来事だったのに、Y子からの電話で、過去のことを思い出す私だったが不思議にモノクロ写真のように感じられた。何の色もない思い出になっていたのだった。
むしろ60歳を目前にし若くしてこの世を去って行ったKに、哀れみを感じた。私の青春。幼稚だった私が知らない世界にのめり込み、思い切り傷ついてきたから、日常の幸せが今は心に沁みる。
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