【前回記事を読む】合コンに誘われた。来年には30歳だからチャンスは逃したくない。けど結婚に焦っていると思われそうだし…

第1灯目 ふたりの渚に恋の予感?

「あのさ、生徒会長だった稲葉君って、今でもですます調の話し方は健在ね」杏子の言葉を聞いて、タマちゃんが言う。

「稲葉君って、あんな調子でプロポーズしたのかしらね?」

イケちゃんは頭の中で想像してみるがイメージがわかない。

「ねえ、牧田さんってどんな人だったっけ?」

「ナギちゃんは覚えていないの? 演劇部の副部長よ。文化祭の時に自分を主役にしたシンデレラをやってたじゃない」

「ああ、あの人ね。なんとなく思い出したわ。自己主張の強いシンデレラだった」

タマちゃんから聞かされて当時の感想を言うと、すぐに杏子から追加情報があった。

「当時のウワサでは、あのシンデレラを見て稲葉君が一目惚(ひとめぼ)れしたらしいよ」

イケちゃんたちがおしゃべりをしていると、いつの間にか稲葉の近況報告が終わっていた。しばらく雑談をしていると、何人かが抽選に当たって1分間スピーチをしている。

「あの抽選に当たったら近況報告をするのよね。とりあえずさ……何をしているのか聞かせてよ」杏子がイケちゃんに向かって言うと、すぐに言い返す。

「杏子が先に話してよ。私はその次ね」

「アタシは平凡だよ。東京の大学を卒業して、公務員試験を受けて、地元に戻って市役所勤務一筋です。以上、終わり」

「えっ、もう終わり……近況報告は?」

「市役所内でサークルをつくって、定期的に山登りをしている山ガールよ」

「まあ、素敵。楽しそうね」

タマちゃんがイケちゃんの代わりに槌相(あいづち)を打つ。

「はい、次はナギだよ。仕事は何だっけ?」

「今は松本バスターミナルの横にあるブースで、観光や交通の案内をしているよ」

「へえ、制服とか着てるんだ……見てみたいな」

タマちゃんからのツッコミにこたえようとした時、次の抽選会が始まった。

「抽選会を始めます。えっと、次は33番の人ですよ。前に出てきてください!」しかし誰も返事をしない。

「ねえ、私が34番だからナギちゃんじゃないの?」

タマちゃんに言われてイケちゃんが反応する。自分の番号札を確認してから、慌てて前へと移動した。幹事の長谷部に促(うなが)されてマイクの前に立つ。