「今日が水曜日だから、五日後の月曜日には高橋は転院する。犯人はそれまでの間に必ず高橋を狙うはず」
「それがな、さっき耳に挟んだんだが、あの男、ボディーガードを雇ったらしいぞ」
「ボディーガード?」
「ああ。なんでも元柔道選手だったとかで随分図体の大きい男が、二十四時間四一四号の個室につきっきりらしい。病院の規則違反だが、どうせ親父さんが無理言ったんだろう。さすがにこれじゃ犯人も近付けないんじゃないか」
「それならいいんですが」
内心、高橋にも復讐の鉄槌が落ちてくたばってしまえばいいのにと呪うような気持ちもあったが、これ以上事件が起きて一夏がさらに傷付くのを海智はとても見ていられなかった。
(それにしても高橋の野郎、こっちの顔を見ても一言も無かった。俺のことを覚えていないのか? それとも昔から奴にとって自分など全く取るに足らない存在だったのか?)
無視されたことがまるで侮辱されたように感じ、海智は鬱々たる思いに沈んだ。
それからというもの、メディアでは今城病院連続殺人事件の話題で持ち切りだった。いずれのメディアでも一夏がさも犯人であるかのような論調で報道された。
梨杏の自殺未遂の件が今更ながら掘り返され、彼女を虐めていた大聖と嵐士に梨杏の親友の一夏が復讐したのではないかというのが彼らの大方の筋書きであった。ネットの書き込みはさらに酷かった。一夏の顔写真や住所まで特定しようとするようなふざけた輩まで出てきた。
海智の苛立ちと焦りも限界まで来ていた。一夏とは電話で連絡を取り合っており、彼女は表面上は冷静さを取り繕っているようだったが、内心彼女の心が壊れてしまうのではないかと不安で仕方がなかった。だが、何の解決策も思い浮かばぬまま七月三十日土曜日の朝を迎えていた。
次回更新は5月18日(日)、11時の予定です。
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