三人が四階病棟に戻ろうと、エレベーター前で待っているとドアが開き、中から看護師二人に牽引されたストレッチャーが出てきた。その上には高橋漣が乗せられていた。おそらく何かの検査に行く途中であろう。高橋は一夏に気付くとすぐに顔を引き攣らせ、大声を上げた。
「お前、何をしている。お前はクビになったはずだろ!」
「クビ? クビになってなんかいないわ。ただ休みを取るだけよ」
「違う! 親父に言ってお前はクビにするように院長に頼んだはずだ。いつまでも殺人犯を雇っている病院がただで済むわけはないからな。何で未だにこの病院にいるんだ。早く出ていけ!」
「私は殺人犯なんかじゃない!」
「信永の復讐のために大聖と嵐士を殺したんだろ。だが俺はお前になんか絶対殺されない。俺は月曜日には横浜の大学病院に転院して、再生医療を受けてまた歩けるようになるんだ。だからそれまでお前なんかに絶対に殺されてたまるものか!」
大声を上げながらストレッチャーは西棟へ向かう渡り廊下へと消えていった。
その後の一夏の憔悴ぶりはとても見ていられるものではなかった。海智の病室で一時間あまり涕泣し続けた。
「私、もうこの病院を辞めないといけないの?」
彼女の嘆きに海智と金清は顔を見合わせるばかりで、気の利いた慰めの一つも言えずにいた。
「高橋が、やっぱり卑怯な手を使って、一夏を辞めさせようとしていたのか」
海智が憤った。
「とにかく暗くなるまでまだここにいた方がいい。日の明るいうちはまだマスコミがその辺をうろうろしているからな」
金清が一夏に忠告した。