第3章 脳梗塞のタイプ
◎心原性脳塞栓症(心臓の病気を原因として生じる脳梗塞)
心臓でできた血栓は、フィブリンという凝固タンパクで固められていますので、大きくて溶けにくいという特徴があります。これが血流にのって脳血管に流れ込み、血管を塞いでしまうのが「心原性脳塞栓症」です。診断のためには心臓あるいは心臓経由の塞栓源を証明することが重要です。
心臓内腔に血栓ができる最重要の原因疾患は心房細動(AF: Atrial Fibrillation)です。心臓の拍動リズムが乱れる不整脈を来し、高齢者に多くみられます。心房細動が起こると、心腔(心房、心室)内で血流が滞り、血栓ができやすくなります。 心房がほとんど収縮しないで、ぶるぶる震えている(1分間に400~500回)だけになり、血液を心室に送る力が弱くなって固まりやすくなるためです。
心房細動は年齢とともに発症率が高まり、70代では10~20人に1人が心房細動を持っていると報告されています。そして心房細動の人は1年間に約20人に1人が脳梗塞を発症し、さらにそれは脳梗塞の中でもっとも重症(ノックアウト型)であることが知られています。
最近米国心臓協会が発表した「潜在性脳卒中診断ガイドライン」によると、虚血性脳卒中は最も多いタイプですが、そのうち30%では原因が特定できず、「潜在性脳卒中」と呼ばれています。上記ガイドラインは、そのうち心房細動などの発症原因として考えられる多くの事象について詳細に解説しています。
潜在性脳卒中の原因となる心房細動患者では脳卒中発症の可能性が通常より5倍高く、潜在性脳卒中患者に心調律モニタリングを長期間行うと、最大で30%の患者が間欠性心房細動を示すといわれています。
心房細動は通常のモニタリング技術で検出できないなどの理由から未診断のままのケースが多いのですが、皮下挿入型モニターの発達により、心房細動を始めとする不整脈の確認や除外が容易になると期待されています。
我が国は、世界でも類を見ないスピードで高齢化社会になっていっています。よって、心原性脳塞栓症の患者さんは社会の高齢化とともに増加を続けています。
心房細動以外の原因としては、心臓内で血液の逆流を防ぐ弁が正しく開閉しなくなる「心臓弁膜症」、人工弁置換術、心臓の筋肉に酸素と栄養を届ける冠状動脈が詰まる「心筋梗塞」、左室血栓、心臓の筋肉に異常があって不整脈などを招く「心筋症」、感染性心内膜炎、先天性の卵円孔開存などが挙げられます。
心原性脳塞栓症は、比較的太い動脈の閉塞が急速に生じるため、発症様式は突発完成型で、側副血行路の発達は不良で、閉塞動脈の潅流域に一致した皮質優位の広範な梗塞を来しやすいのが特徴です。ほとんどの場合、日中の活動時に突然起こるので、手足の運動麻痺や感覚障害、意識障害などが現れます。
また、発症時にもっとも症状が重いのも特徴の1つです。すなわち、意識障害を伴う重篤な神経症状を呈することが多く、致死的経過をとることも少なくありません。
脳動脈硬化とは関係なく起こり、他のタイプと比べて梗塞巣が大きい傾向があります。したがって、重症になる症例が少なくないのです。
急性期に栓子が粉砕、溶解することによって起こる再灌流が半数以上にみられ、顕著な血管性浮腫と出血性梗塞を来しやすいのも特徴的です。なお、出血性梗塞は亜急性期に側副血行路の発達や新生血管の増生に伴って生じる場合もあります。出血性梗塞は脳梗塞の中に出血を起こしたり、脳梗塞とは別の場所に発生したりして、さらに重症化することも稀ではありません。
それで、心房細動のある方は脳梗塞を予防するために原則としてワルファリンという血液をサラサラにする薬を飲むことが勧められていました。
適切な量のワルファリンを服用することにより、脳梗塞の発症が約60%減るとされています。