兄貴としての役割 齊田 守

スポーツの世界には、いたるところに〝兄貴〟や〝姉御〟がいる。

苦しい時や、迷った時、グイッと背中を押してくれて、進むべき道がわからず途方に暮れていたら「こっちへ来い!」と大きく手を振り、笑顔で叫ぶ。

いついかなる時も情熱と、愛情を注ぐ。日本フェンシング協会元理事で、強化委員長も務めた齊田守はまさにそんな、フェンシング界の〝兄貴〟だ。

フェンシングを引退して間もなく、商社マンとして働いた頃に残した逸話がある。

「当時は人事部にいて、東大や京大、一流国立大学の学生を担当していたんです。

ある時、京大の内定をもらった学生が、東大のテニスサークルで対抗試合をした時に、就職の話になり、大手総合商社から内定をもらったという東大の学生に『兼松に齊田さんっていう面白い人がいるから、会ってみろよ』と言ったそうなんです。

そうしたら次の日、その東大生は何のアポイントもなく会社に『齊田さんっていう方、いますか?』と名指しで会いに来た。聞けば『東大の山本です』と。高級スーツで、何だこの学生は、と思ったけれど話してみたら面白い。福岡の明太子屋の倅か、と意気投合して『うちの会社に来い』と言ったら、他の内定を断って本当に来た。『男の約束ですから』って。

だから僕も『よしわかった、俺が面倒見るから』と会社のことはもちろん、すぐフェンシング道具を一式揃えさせたんです。僕の得意分野はサーブルだから、とサーブルの道具を揃えさせて、そこからフェンシングを始めさせて、教えていったら全日本選手権の団体で2位になるまでの腕前になった。巡り合わせって、面白いものですよね」