マスコミは、この猟奇殺人事件を大きく取り上げ、犯人に関する様々な憶説を連日流し続けていた。しかし、警視庁西城警察署に設けられた特別捜査本部では、マンションの防犯カメラに映った映像の解析と、カズコブランド社の社員を中心に行なった聞き込み捜査で、早くから犯人を絞り込んでいた。
司法解剖の結果、国枝和子は遺体が発見された八日の午後一時五分からおよそ三十〜四十時間前、すなわち一月六日の午後九時頃から七日の朝七時頃までの間に殺害されたものと推定された。
正面玄関の防犯カメラには、遺体が発見された前々日の六日夕方、国枝和子が若い女性と連れ立ってマンションに入る姿が映っていた。
その女性は夕食でも共にしたのか、三時間近く経った九時少し前の八時四十八分にマンションを出る姿が同じ防犯カメラに映っていた。
その前後から翌七日の朝七時過ぎまでの間、正面玄関と裏口の防犯カメラにマンションに出入りする多くの人の姿が映っていたが、その中でマンションの住人以外の人物は六人いた。
そのうち三人は、それぞれマンション内の別の住人を訪ねた人物であることがすぐに判明した。残り三人のうちの一人は、近くの宅配ピザの配達員であることも確認された。
残る二人は、いずれも裏口を利用していることから、どちらかが犯行に関わっている可能性が高いと判断した捜査本部は、この二人の人物の人定を急いでいた。