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凄惨な事件であった。

新年早々の一月八日、新宿を起点として東京、神奈川を貫く東神電鉄の西城公園駅にほど近い瀟洒なマンションの一室から女性の遺体が発見された。

遺体には、鈍器で殴られたような後頭部の陥没と胸部に致命傷になったと思われる数カ所の刺し傷があったが、傷はそれだけではなかった。

大きく切り裂かれた腹部からは、まるで腑分けをしたかのように内臓の一部が体外に引きずり出されており、皮膚がめくれ返った首の部分には、気管や太い血管が不気味に露出していた。

遺体は、前日から連絡が取れないと会社から届け出のあったこの部屋に住む「カズコブランド社」社長、国枝和子のものであった。

直後の現場検証では、遺体が発見された居間から浴室まで血痕が続き、浴室の流し口に血のりが付着していたことなどから、犯人は、恐らく大量に付着した国枝和子の返り血を浴室で洗い流したものと思われた。

鑑識による指紋採取で不特定多数の指紋が発見され、直ちに指紋データベースで照合が行なわれたが、登録された犯罪歴のある人物の指紋に一致するものは見つからなかった。

ただ、玄関をはじめ各部屋のドアノブやチェストの引き出しなど主だった場所からは指紋がほとんど発見されず、何かで拭き取られたものと推測された。

被害者が、斬新なデザインで日本国内に留まらず海外でも広くその名を知られた高名な服飾デザイナーであることと、殺害が稀に見る残虐な手口であることから、事件はいやが上にも注目を集め、世間を騒然とさせた。