そのうちの一度、小澤征爾さんの思い出について書く。
2009年12月5日土曜日13時~15時15分に、すみだトリフォニーホールで、小澤征爾さん指揮の同曲公開リハーサルがあった。 リハーサルのあと、小澤さんはマイクを持って聴衆に丁寧に話したが、体が少し折れている感じで、つらそうであった。
翌日12月6日日曜日の新日本フィルハーモニー特別演奏会、ベートーヴェンのピアノ協奏曲1番、そしてブルックナー交響曲3番だった。このとき初めて、上原彩子というピアニストを知った。
小澤さんは情熱的に振り、体の不調を見せなかった。しかし私が小澤征爾という指揮者の音楽を聴いたのは、これが最後である。以後何度か、小澤さんのチケットを買った。しかし私が確保したすべてで、小澤さんの指揮は実現しなかった。
そして私は、小澤さんのチケットを、求めることをやめた。求めて実現しないのも辛いし、実現して十全でない小澤さんを見るのは、更に辛いと思った。
私は、新日本フィルハーモニー交響楽団の、最も古い定期会員である。私より古い定期会員は多くないと思う。私が定期会員になった理由は、「小澤征爾を確実に聴ける」という、それが唯一である。
大分前になるが、小澤さんがテレビの中で語っていた。「自分の表現したい速度で腕が振れない、指が動かない」 座ったまま指揮する指揮者はいる。指揮者にとって、脚よりは手が命なのだと、そのとき私は知った。
次回更新は5月17日(土)、20時の予定です。
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