高校二年生の夏休み、両親と三人で北アルプスの山に登ったことがある。
私としては、この二人と行っても楽しくないので気が進まなかったのだが、とにかく父は有無を言わさない人なので、私は我慢して言いなりになるしかなかった。
父は山登りが好きだったが、アルプスは初めてだったと思う。
しぶしぶ親に同行した私だったが、天気も良く、三千メートル級の山の頂上で見た満天の星々と雲のごとくにくっきり見えた天の川銀河は、鳥肌が立つほど感動的で素晴らしく最高だった。
特にこの頃の私は宇宙が好きで、勉強せずにいつも夜空ばかり見上げているような女の子だったので、この星空を見ることができただけでも、行って良かったと思う。
しかし、帰りの列車の中で、私は今でも忘れられない嫌な思いを強いられることとなるのである。
急行か特急だったと思うが、どの車両も登山客であふれ返っており、超満員の状態だった。
私たちが乗った時には、既に通路も新聞紙などを敷いて座り込んでいる人たちでごった返していた。通路でさえ座るところが全くなく、私たち三人は座るところを求めて車両を移動していたが、先の方に通路に全く人のいない車両が見えた。
「あっち空いてるわ。向こう行こ」と言って、父は私たちを連れてその車両に行ったが、そこは貸し切り車両だった。
はっきりとはわからないが、高校生くらいの団体だったと思う。紺色の詰襟の制服で男子校のようだった。
貸し切り車両なのだから、誰もそんな車両の通路になど座るわけがなく、空いているのは当然である。
しかし、父はそんなことはおかまいなしで、その貸し切り車両の通路に新聞紙を広げて座った。