【前回の記事を読む】彼女は他の女の子達とは違う。彼女ときたら、男がいる前で、お構いなしにガニ股で水の流れの中を踏ん張って洗濯しているんだから。…
真夜中の精霊たち
濡れた雫で梳かされた黒髪とか、水滴がその上で泡立つ小麦色の肌とか、いくらでも描写することはできるけれど、そのどれ一つとして、彼女の美しさの核心に迫るような形容はない。
その時に見た彼女の瞳の色を、彼は生涯、忘れられなかった。あんなふうに切り刻まれてしまった彼女を見た後でさえ。
謝罪の言葉と、彼女にキスをしたいという堪え切れない衝動が同時にこみ上げてきて、危うくもう一度水の底に沈むところだったが、ドゥモが何か喋り出すよりもハミングアローの足が動くほうが早かった。
「すまない」と言おうとして咄嗟に差し出した彼の手の意味を、もしかしたらハミングアローは勘違いしたのかもしれないし、別の理由があったのかもしれない。
彼には、彼女が何も言わずに踵を返し、一目散に森の中へ疾走して、彼と洗濯籠をそこに置き去りにしていった理由が、皆目分からなかった。そもそもどうして僕の背後にいたのだろう。何のために?
恋に落ちてのぼせ上がった男の脳裡には、長いこと水に潜って浮かび上がってこない彼を心配して、助けようとしただけかもしれないという、一番ありそうで真っ当な考えはひらめかなかった。
それからの彼の日々といえば、煩悶、憂悶、気鬱に、また煩悶といった具合だった。素敵なニュースといえば、ハミングアローが初めてのムーンタイムを迎え、正式に大人の女性の仲間入りをしたことくらいだ。
男の求愛を受けるに相応しい立場になったが、他の男達も彼女を狙うに違いないという不安で、ドゥモは喜んだのもつかの間、またしょげかえってしまうのだった。
もしもハイホースなんかが彼女を好きになってしまったらどうしよう。彼の弓の腕は最高だし、家柄も悪くなく、見てくれもいい。おまけに近頃は、甘ったるい匂いのする香油なんかつけて色めきたっていやがる。
ここだけの話、自分と同じ年に生まれたハイホースという青年のことを、ドゥモは好ましく思っていたんだ。彼の手から紡ぎ出される言葉が、誰よりも優しかったから。
君も知っていると思うけれど、彼らネイティブアメリカンは文字という意味での言語を持たない。けれど遠くにいる仲間と会話をするとき、ジェスチャーを使うんだ。
君は知っているかな。彼らの手ぶりで語られる言語が、どんなに美しかったかを。ドゥモは、特にハイホースと遠くから会話するのが好きだった。ハイホースが指の間隔を広げて地面にそっと右手を置くとき、「大地」。
そしてその手を芽吹く若葉のように揺ら揺らと立ち昇らせるとき、「春の訪れ」。狩人らしく陽に焼けた艶やかな肌と、筋骨逞しい引き締まった身体から伸びる手の動きが、どうしてあんなに涙ぐましいほど繊細なのか。時々本当に目頭が熱くなるのを堪えながら、考えることがあった。