何度見たって慣れることのなかった光景がある。そしてその光景は、最後の瞬間に彼が最も強く心に思い描いた場所でもあった。

それは一日のはじまり、薄れゆく朝靄の彼方から昇ってくる太陽であったり、遥かな頭上で煌めく星空であったりしたけれど、遠くの山から季節の訪れや花の開花を教えてくれるハイホースの姿も、そんなものに等しかった。

けれど恋となると話は別だ。ハイホースがいくら素敵な奴で、彼に信頼以上の友情を抱いていたとしても、ハミングアローにあのむせかえるような熟れきったマグノリアの匂いをプンプンさせて近づく気なら、どちらが彼女に相応しいか正式に勝負を挑むことになるだろう。

恐れをなしたドゥモは、その日から自分もハイホースほどいやらしくはないが魅力的に見えそうなシトロンの香油を、せっせと身体中に塗りたくることにした。

いくらいい匂いを発散させていても、とうの彼女に近づくこともできないんじゃ意味がなかったが、彼がそのことに気がついたのは、ハイホースのモテテクを真似しはじめて九カ月も経ってからのことだった。

こうなったらダンスと毛布のデートに賭けるしかないと、彼は腹を括(くく)った。でもまずはダンスで彼女の出方を窺わないと、とても毛布のデートにまで漕ぎつける自信はない。

彼らの社会では、ダンスはとても重要な意味を持ち、最も身近な楽しみの一つでもあったんだよ。気を引き締めて踊る神聖な儀式のダンスから、ただ楽しみのためにある気楽なダンスまで、部族に伝わる曲はいくつもあったけれど、彼が今言っているダンスというのは、男女が輪になって踊る曲のことだ。

ドゥモの部族では、男女が一緒に踊れるのはこの一曲だけなんだ。もっとも、彼らのダンスではオクラホマミキサーみたいに手を繋いだりすることはできなかったけれど、一瞬でも女の子の息がかかるほど接近できる機会なんてそうそうないからね。

手も繋げない素っ気ないダンスでも、彼らにとっては願ってもないチャンスってわけさ。

 

 

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