【前回の記事を読む】教会に出入りしていた男が資金を詐取して逃亡するという事件が起きた。熱心だった若い牧師が責任を取る形で転勤させられ…
海鳴りの聞こえる町
つねは一見、子供の面倒を見ないで放任しているかのようであったが、時々思い切った行動にでた。
突然、「この子は疳(かん)が強いから」と言い出して、遊んでいる千津を捕まえ、太った体で上から乗って押さえつけ、足の小指にお灸をすえた。
着せ替え人形や、ままごとの道具などを広げたままにしていると、大変なことになった。
「ぐじゃまんかいにするな(散らかすな)」
という言葉より先に、道具などは縁先に放り出された。
千津が駄々をこね、登校するのを嫌がった時は、泣きわめくのも構わず、柱を掴んだ指の一本一本を離し、手を引っ張り学校へ連れて行った。
この強烈な体験に懲りて、彼女が、「学校に行きたくない」と言い出すことは二度となかった。
「この子は本当に丈夫で、今まで全く病気しねいですよ」
つねは、風邪で寝込んでいる千津の往診に来た山内先生に、毎回、同じ言葉を使った。
年に一、二度は、熱を出すことがあったから、その話を聞いていて、子供心におかしいなと思った。
二、三日して熱が下がると、滋養をつけさせようと、蕎麦屋から鍋焼きうどんの出前をとってくれた。