【前回記事を読む】「年頃になったら、女は嫁に行くもんだ。」父に縁談を無理強いされた次女は一年半後、赤ん坊を抱いて戻ってきた。
「もはや戦後ではない」
それに徳一だって、コテをあて髪にウェーブをつけている、不良の自分を良いとは思っていないだろう。
つねにも訴えた。
「母ちゃんからも、義父ちゃんに言ってよ」
「うん、そうだなあ」
つねは、今まで兄と呼んでいた人と結婚させられる、なみの困惑する気持ちはわかるものの、この剛三の目論見が、自分の老後を考えてくれてのことだと思うと、一概に無下にすることもできないのであった。
なみの、学校での傍若無人な行動は、ますます激しくなった。
一緒に暮らすスミは、これから結婚相手を選ぶことができる。養女の自分は、そんな自由もゆるされないのか。憤懣ばかり高まっていった。
そして卒業が近づいた三月、彼女はつねの姉が嫁いでいた県内の稲倉町へと、家出を決行した。
秋祭りの際、伯母が息子の幸作を連れて本庄の家に挨拶に来て以来、なみは二つ年上のこの従兄のことが、ずっと気になっていたのである。
スミは中学卒業後、嫁入り修行の一つとして洋裁学校に入った。彼女の望みは、労働のきつい農家には嫁ぎたくない、というものだった。
近所の健一を慕っていたが、相手は結婚相手として、彼女をみてはくれなかった。
一度剛三と共に、長女のシゲの嫁ぎ先に、用事があって出向いたことがあった。田舎の家と比べ、狭いアパートの一室に親子四人で慎ましく暮らしていたのだが、そこで垣間見た都市のサラリーマンの生活は、彼女にとって憧れとなった。
ある日、スミが家に戻らないという事件が起きた。
家族で行方を捜していると、彼女が、洋裁学校に出入りしている男と一緒にいるところを見た、という目撃談が出てきた。
その後、警察にも届け出をしたが、一向に手掛かりは見つからなかった。