下山は谷を下ってくるコースだった。かなり急な勾配の箇所もあって、膝に不調のある方には、キツイところもあったようである。なにはともあれ、参加者全員、無事にバスに戻ることができた。この日のランチは、村の集会所となっているお寺さんの広間が会場であった。

男衆がほとんどいなくなってしまった、限界集落の高齢のお婆ちゃんたちによる、すべて地元野菜やお米を使った手作りご飯をいただくことになっていた。サラダ・煮物・天ぷらをはじめ、たくさんの郷土料理がテーブルいっぱいに並んでいた。

「たんと、おかわりしてや~」

屈託のない笑顔で、順番にテーブルを回ってくれていた。皆さん、80歳を超えていらっしゃるとのことなのに、背筋はぴんとされていて、身のこなしもスムーズで、年齢を全く感じさせないお婆ちゃんたちの姿から、やさしくて快活なエネルギーが、あたり一面に放射されていたように思う。

結迦は干し柿を使ったデザートのことが気になって、お婆ちゃんに尋ねてみた。干し柿の中に入っているあんこのようなもの、それを詰めてまた数か月もの間、寝かせておくことなどを聞いているうちに、アツいものがこみ上げてきてしまったようだ。

「そんなに手の込んだものを、いただいているのですね……。ありがとうございます。私も、元気に長生きできそうですね」

新米と自家製の梅干しが、参加者ひとりひとりにお土産として、準備されていたのである。

また、とれたての野菜や手作りの佃煮などもお土産用に用意されていて、ほぼ完売となったのであった。なんとも貴重な体験をさせてもらえたことに、結迦は心から湧きあがってくる想いを、丁寧に味わっていた。

別れを惜しみながら外へ出ると、陽は少し落ち始める気配を漂わせていた。お腹もいっぱい、胸もいっぱいな状況で、再びバスに乗り込んだ。駅に着くと、皆さん満足げな笑顔で挨拶され、それぞれ解散となった。

結迦は帰りの新幹線に乗り、帰途につく。こうして、安土城址ツアーは結迦にとって、忘れ得ぬ、この上なく満足度の高いものとなったのである。

ツアーから戻った後に、結迦は友人宅へ遊びに行く予定を入れていた。

 

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