市の監督村上がついに言った。
「わかりましたわ。まず自治会長に勝手にオーケーするなんて、と抗議から始めますわ。もしかしたら、会長はこれから会員に情報を流すつもりだったかもしれませんしね。少しお時間くださいね」
沙那美はこの立ち会いが終わったら、自治会長のところにやんわり談判に行こうとおもっていた。
勝手に自治会の方針を決めるな、こんなことを言いに行ったら、自治会長は、
「そんなにゆうんやったら、わたしは会長を降りるわ。成り手がないからと無理矢理やらされているんやから、教師のあんたがやったらええんや。うってつけや」
と声のオクターブを上げるだろう。だが、彼はやりたくて自治会長をしている、辞めはしない、口だけだ、と沙那美は踏んでいる。
彼女は明日から仲間のボランティア・グループを中心に駅前や学校前で署名活動を開始しようとおもった。校長の唇がへの字に曲がる様子が心に浮かんだ。もちろん校長を困らせるつもりは毛頭ない。
今晩はまず、ビラ作りだ。インターネットのアプリで簡単な図案を考える。それには明日の早朝、菩提樹の最新の写真を撮ろう。花が咲いているときの写真はある。春の木漏れ陽も夏の木陰も撮ってある。大樹伐採反対の署名をお願いする駅立ちも始めよう。
〈菩提樹のある町を守ろう! 人にやさしい小川が流れる真っすぐでない道があってもいい。神が宿る〝神木〟を守ろう! 地域の多くの方がたが賛成しています〉をスローガンにしよう。
次回更新は4月13日(日)、22時の予定です。
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