沙那美は礼を逸しないように心がけて言った。
その日の夕方、雨は上がった。
叔父雅史がしめ縄を軽トラックに積んでやってきた。
「表の菩提樹やな。さてーと、一仕事するか」
「待って。しめ縄の復元だけど夜中まで待って誰が巻いたのかわからないようにしたいの」
沙那美は無理を聞いてくれた叔父に頭を下げながら言った。
「まるで丑三つ時参(まい)りやな。あれも呪いの刻(とき)を人に見られたら効力がないのや」
雅史は笑いながら言った。
「呪いをかけるわけではないわ。でも、密かに誰にも知られずにしめ縄を復元したほうが、神秘的で、ご利益(りやく)がありそうにおもえない? しめ縄の復元でみんなにこの菩提樹がもともと〝神木〟だったことを知ってもらうの。
幹に昔のしめ縄を巻いた菩提樹の古写真をコピーして貼り出すわ。それとこの菩提樹が道路工事で伐採されるかもしれないとも書いておくわ。そうすれば、あの菩提樹の命を守ることにみんなも賛同してくれるとおもうの。大樹はしあわせを呼ぶの」
沙那美はこの菩提樹が〝命の恩人〟であることを秘めて黒目がちな目に力を入れた。
「ああ、それはわかるよ。〝神木〟は守らなぁな」
雅史は遠くを見て、少し眠るよ、と言ってリビングのソファーに寝転び、すぐいびきをかいて眠ってしまった。農家は朝が早い。暗くなったら眠るのかもしれない。沙那美は叔父の寝顔を見た。やはりどこか母の面影を感じる。とても申しわけない気持ちになった。
日付が変わるころ、沙那美はリビングでテレビを見ていた。と、横のソファーで仮眠を取っていた雅史が、「そろそろやな」と起きた。