「イタ、タ、タ」と、杏はうめき声を上げた。足をくじいてしまったらしく、歩けない。ため息をつきながら杏はつぶやいた。

「辺りには人もいないし、どうしよう」

昼下がりの曇り空の下、杏は途方に暮れた。

小高い丘のその場所から、振り返ると南北に延びる信濃川と長岡の町が見渡せた。平野に広がる田畑も見えた。その反対側には、美しい立ち姿で、ブナ林がすらりと伸びている。下草のないその林には、光がうっすらと届いていた。

しかし、助けを呼ぶにも人が通っている気配すらなかった。

杏がそこに四時間程立ち往生していると、丘の下を通る数人の集団を見つけた。

その集団は皆、馬に乗っている。

 ─どうしようか? 声をかけようか? それとも野盗の集団だったらどうしよう。でも、これを逃したら、次に通る人はいないかもしれない。

杏は迷ったが、その馬に乗っている人たちが全員女性であることに気づき、大きな声でその集団に声をかけた。

「そこの方々! どうかお助けを!」

幸運なことに、数人の馬に乗った女性集団は、その声に気づいた。

先頭を走っていた女性が後ろに続く者たちに、進む方向を変える指示をした。

杏が倒れている場所まで、その一団が山を登って来ると、先頭の女性が杏に声をかけた。

「大丈夫ですか? 助けが必要ですか?」

「馬から落ちて、足をくじいてしまったようで、歩けないのです。助けて頂けますか?」馬を降りて来た女性に、杏は答えた。

その女性は、紺色に染められた農作業服を着ていた。その姿を見て杏は、咄嗟(とっさ)に思った。

─あの方たちは、忍者かもしれない。

しかし、助けてもらうために、人を選んでいる場合ではなかった。グズグズしていると、日も暮れてしまう。

杏は、そのまま女忍者集団に助けられた。

 

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