「は? 幽霊の吉村に? はははっ! バッカじゃないのおまえ。それとも、自分のしたことを幽霊のせいにしたいワケ? いいよ。おまえがこのデジカメを5000万円で買ってくれれば、これまでのことは幽霊の吉村のせいにしてやるよ。

でも、そうじゃなかったら、俺は出版社に行ってこのデジカメ買ってもらう。これを言うために俺はおまえに会いに来たのよ。良心的でしょ。一応、主役の了解を取っておこうと思ったからさ。もしよかったら、原田のご両親にこのデジカメ買ってもらってもいいよ」

今村の話とともにホームに流れる電車到着のアナウンスが耳に入り、原田の気持ちは焦っていった。

(ここで今村からデジカメを奪わなければ、俺は極悪の殺人犯になってしまう……)

「デジカメをよこせ!」

原田は今村が持つデジカメに手を掛けた。しかし、今村は当然のようにデジカメを護る。

「なにすんだよ! これはタダじゃやれないんだよ!」

広いホームにまばらな人影が立ち、その片隅で男子ふたりがデジカメの取り合いをする。周りから見れば学生がふざけているように見えたのかもしれない。しかし、そのとき、原田がデジカメを取り上げた反動で今村が体勢を崩し線路へと転落した。

『ファ――――――ン!』

電車の警笛が鳴り響いたかと思うと、異様な音とともに電車は停止した。

「人が落ちたぞ!」

「電車に人がひかれた!」

原田の周りに人が集まり、デジカメを持って放心状態の彼に誰かが何かを言っていた。しかし、原田の耳には何も聞こえておらず、ただ、今村から盗ったデジカメを握りしめながらブツブツとつぶやいていた。

「俺は悪くない……みんな吉村のせいだ……悪いのは吉村だ……俺は……悪くない……」