そして桜の園は夢の彼方に─ちっぽけな戸建てがちまちまと建ち並ぶ情景が網膜に映って消えた。

悠輔が眠っている先祖墓地も気になる。彼は生前、桜の樹の下で眠りたい、と夕子と同じことを言っていた。しかし、桜の園に悠輔の墓を移すことはできない。先祖墓地には三月中旬に咲く早咲きの山桜の樹が一本あった。あの挿し穂を取って桜の園の大紅しだれ桜の側で育てようとおもう。

墓ではないけれど、墓じまいまではやっている現代、夕子の心にある「桜墓」も良いのではないか。

悠輔は大紅しだれ桜の横で永遠の眠りにつけるし、夕子は毎日、その山桜に話しかけられる。

いずれ夕子にも死が必ず訪れる。

(もうちびっと気張ってみるえ)と呟き、男女を問わず庭師希望の若者を二人雇おうとおもった。悠輔の地道な経営のお陰で人並みの給料はどうにか払えそうだ。

彼らに桜の心を教えよう。一緒に桜を世話し毎日暮らせば、彼らの桜へのおもいが本物かどうかわかるだろう。そうすれば、接ぎ穂と台木注1)のように固く結ばれた後継者も選べるかもしれない。

そのとき、一陣の風が吹き、魁の花びらが青空に舞い上がった。